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芥川龍之介『鼻』を再読しての感想と用語集

カムです。

昨日、ふと急に読みたくなり、芥川龍之介の『鼻』を読み返しました。

今回はせっかくなので『鼻』のより詳細な感想を書いていきたいと思います!

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『鼻』の感想

(画像は新潮社より)

 

五六寸(15cmちょっと)の長い鼻を持つ僧の話で、寓話的に自分の容姿に悩む人間心理が描かれていて、やっぱりこの話好きだな~と改めて思いましたね。

特に冒頭は最高です。

禅智内供(ぜんちないぐ)の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋(あご)の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰のような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのである。

(『鼻』芥川龍之介 青空文庫より)

この鼻の説明だけで一気に物語に引き込まれます。あごの下まである鼻ってなに!?そんなのありえるの…!?ってすごく興味が引かれる。象のように鼻をぶらさげたお坊さんを想像するとちょっと可笑しいですし、実在しないものを想像する時のような不思議な気分に襲われます。

このお坊さん、実は元ネタがあるらしく、『今昔物語』、『宇治拾遺物語』に登場する鼻の長い僧が題材になっているようです。ネットに公開されている両方の現代語訳を読んでみましたが、確かにお坊さんの鼻の特徴が同じでしたし、食事の時にごはんが鼻につかないように弟子に鼻を持ち上げてもらっているルーチン(←どんなルーチンだよ)も共通していましたね。

しかし、芥川龍之介の『鼻』では、禅智内供が自分の長鼻をコンプレックスに思っているという独自の設定を付与することで(原作では鼻の痒さに困っているだけ)、周囲の弟子たちとのかかわりに、原作とは違った変化を与えています。

いや、というより『鼻』の禅智内供は『今昔物語』、『宇治拾遺物語』の僧に対する、芥川龍之介なりの解釈ともいえるでしょうね。原作では劣等感を感じていないふりをしているだけで、実際は気にしていたんだろ?という芥川龍之介の洞察が、この短編に表れているのかもしれません。

しかもこの禅智内供さん、単純なコンプレックスではなく、かなり根の深い闇を抱えています。自分の長鼻を気にしていることを周りに知られたくないために、ふだんはすました顔をしており、念願の鼻を短くする方法を弟子が見つけてきた時も「ふ~ん、そんな方法あるんだ~。ワシ、べつにこの鼻のこと気にしてないけどね~。なんなら長いままでもいいと思ってるしぃ~。でも、食事の時に弟子たちに手間かけさせんのもアレだからなぁ~(;´◉◞౪◟◉)(※実際にはこんなセリフはありません)」という態度を取り、鼻を短くする方法の実践を弟子たちが勧めてくるのを誘い待ちするという面倒な駆け引きをし始めます。

このように『鼻』では禅智内供の複雑な心の機微を楽しむことができます。どこまでも人間くさい禅智内供は可愛らしく、また自分を投影する鏡でもあります。私も相手に本心を悟られたくなくて、自分の気持ちを偽って表現したことは何度もありますし、青空文庫に載っているほど昔の小説でも、そういった共感が得られるのは面白いと思います。

読むのが早い人なら五分で読めますので、興味がある方はぜひ読んでみてください→『鼻』芥川龍之介 青空文庫

用語集

おまけで、『鼻』の用語集も載せておきます。『鼻』は読みやすい短編ですが、ところどころ「どういう意味?」という単語が出てくるので、備忘録用に調べてみました。

禅智内供(ぜんちないぐ:主人公の僧。鼻が長い。『今昔物語』、『宇治拾遺物語』に出てくる僧がモデル。
池の尾京都府宇治市(現在)にある地名。
沙弥(しゃみ):修行前の少年僧。
内道場供奉(ないどうじょうぐぶ):宮中の内道場(修行所)に奉仕する高僧。
渇仰(かつごう):仏を強く慕うこと。
鋺(かなまり):金属製のおわん。
中童子(ちゅうどうじ):雑用係の少年。
嚏(くさめ):くしゃみ。
経机(きょうづくえ):経本をのせる机。
観音経(かんのんぎょう):法華経の中の一章。
僧供(そうぐ):僧への供養。
湯屋(ゆや):入浴施設。
水干(すいかん):男性の衣服の種類。
帷子(かたびら):夏用の麻の衣服。
柑子色(こうじいろ):明るめのオレンジ色。
椎鈍(しいにび):墨色。
内典外典(ないてんげてん):仏教とそれ以外の書物。
目連(もくれん):古代インドの僧。
舎利弗(しゃりほつ):古代インドの僧。
竜樹(りゅうじゅ):古代インドの僧。
馬鳴(めみょう):古代インドの僧。
震旦(しんたん):古代中国のこと。
蜀漢(しょくかん):三国時代に劉備が建てた中国の国。
劉玄徳(りゅうげんとく):劉備のこと。
長楽寺(ちょうらくじ):京都市東山区にあるお寺。
供僧(ぐそう):供奉僧。本尊に奉仕する僧。
折敷(おしき):食台の一種。
普賢(ふげん):普賢菩薩。
慳貪(けんどん):煩悩の「慳(利己的)」と「貪(貪欲)」のこと。
風鐸(ふうたく):お寺につるす鈴。
九輪(くりん):寺の塔の装飾。
蔀(しとみ):格子つきの板戸。

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