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まるでホラー作家? 読むと恐怖感を味わえる安部公房の長編小説3選

(筆者:カム)

国内外で評価の高い作家・安部公房。芥川賞、フランス最優秀外国文学賞など、数々の賞を受賞しており、ノーベル文学賞委員会の委員長ペール・ベストベリーも「急死しなければノーベル文学賞を受賞していた」と、2012年に読売新聞の取材で答えているほど。

そんな文学界の巨匠ともいえる安部公房の作品には、ホラーのような雰囲気を感じさせるものも多い。この記事では私が特に「これホラーだ!」と思った安部公房の長編小説を3つ挙げていく。

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砂の女

安部公房作品の中で最も有名なのが本作。二十数ヵ国語に翻訳され、読売文学賞、フランス最優秀外国文学賞を受賞しており、安部公房の名が一躍世界中に広まるきっかけになった小説でもある。

あらすじは砂地にすむ昆虫〈ニワハンミョウ〉の採集のために砂丘へ出かけた男が、砂穴の中に建てられた家に監禁されるという話。男はなんとか脱出を試みるものの、家にいる女や、他の部落の人間たちにことごとく妨害される…

まるで「監禁もの」のホラー映画の設定のよう。ただし、安部公房の場合、「砂丘の村」というどこか幻想的な舞台を設置することで、ホラー要素と文学性が複雑にからみあったオリジナリティを作品に与えているのが特徴。

人間そっくり

安部公房の小説にはSF風の作品も多い。ただし、『砂の女(1962年)』が刊行されたあたりからはSF風の小説が減っていく。『人間そっくり』の刊行は、1967年で、前回のSF長編『第四間氷期』が刊行された1959年から「8年」も経過している。

あらすじはどこからどう見ても人間にしか見えない男が「火星人」と名乗り、脚本家の「ぼく」のところにやってくるというもの。男の妻を名乗る女の電話では、その男は自分を火星人だと思い込んでいる分裂病患者なのだという。「ぼく」は男をあしらって早く帰ってもらおうと考えるが、男のたくみな弁舌に翻弄され、男がただの人間なのか、それとも火星人なのか、しだいにわからなくなっていく…

サイコホラーでありそうな設定に、SF要素が加味された感じ。『砂の女』では、主人公が物理的な脱出不可状態に陥るのに対し、『人間そっくり』では、火星人か人間か?という解剖学的な迷路にはまり、抜け出せなくなるのが特徴。

密会

安部公房がだんだん小説を発表するペースが落ちていく後期に書かれた長編。私はこの小説が一番好き。『砂の女』の構造をベースに、怪奇さを数段パワーアップさせたような世界観になっている。

あらすじは夜中に救急車で妻を連れ去られた男が、病院で失踪した妻の行方を捜すというもの。過剰に性的なふるまいを見せる病院の奇怪な患者・医者・職員とのかかわりに困惑しながらも、なんとか妻のてがかりを見つけようと試みるが、やがて男自身も巨大な病院の複雑な迷路構造に迷い込んでいく。

この作品はとにかく主人公以外の人物が無気味。他人の下半身を自分の下半身にくっつけて二人分の脚とペニスを持つ馬男をはじめ、主人公に色目を使う試験管ベビーの女秘書、色情魔の溶骨症の少女、オルガスム・コンクールに出場する仮面女など、びっくり人間のような人物たちが次々出てくる。

それに加え、病院のあちこちで見られる性的なアイテムや、盗聴器、架空の病名・診療科名などの現実離れした小道具により、地獄のような物語空間が醸成されているのが特徴。

安部公房はなぜホラー風の作品が多いのか? 影響を受けた作家

安部公房の小説の多くにホラー要素があるのは、エドガー・アラン・ポーやカフカに影響を受けているからだと考えられる。エドガー・アラン・ポーは恐怖小説を多く書いたし、カフカはまさに安部公房のような主人公が脱出不可能な迷路に迷い込み、決して出口を見つけることのできない無限回廊を思わせる長編を残している。

こんな風に、純文学でありながら、エンタメの要素が組み込まれることがしばしばみられる点も、純文学の面白いところだ。

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