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カフカ、ガルシア=マルケス…晩年の安部公房が愛した四人の作家を紹介

(筆者:カム)

安部公房は様々なエッセイ・インタビュー(1980年~86年)が収録されたこの本で、自身の好きな作家たちについて触れている。

日本の作家やその作品にはあまり興味を示さなかった安部公房だが、この本では国外の作家への愛や評論が語られ、彼らへの並々ならぬ思い入れが感じられる。

この記事では、そんな安部公房が晩年に愛した四人の作家を紹介する。

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フランツ・カフカ

(新潮社より)

このところ僕は、ますますカフカが好きになりだした。あれほどきれいさっぱり儀式的混濁を濾過してしまった作家も珍しいんじゃないか。

(『死に急ぐ鯨たち』破滅と再生 2 より)

チェコ出身の作家・カフカ。生前はほとんど無名だったが、死後になって発表された未完の長編『審判』、『城』、『失踪者(アメリカ)』が高い評価を受け、現在では20世紀文学を代表する作家として世界中の人々に読まれている。

日本でも安部公房はもちろん、村上春樹や大江健三郎が影響を受けたことを公言しており、国内・国外問わず国際的な評価を得ている作家の多くはカフカを愛読している特徴がある。

カフカの作品のテーマは「孤独」と「永遠」。主人公は常に周囲の人間や社会から疎外され、永遠とも思えるような孤独に苛まれる。『審判』、『城』、『失踪者(アメリカ)』がいずれも未完に終わっていることも、かえってその永遠性を際立たせているかっこうだ。

ガブリエル・ガルシア=マルケス

(新潮社より)

読んで仰天してしまった。これほどの作品を、なぜ知らずにすませてしまったのだろう。もしかするとこれは一世紀に一人、二人というレベルの作家じゃないか。

(『死に急ぐ鯨たち』地球儀に住むガルシア・マルケス より)

コロンビア出身の作家・ガルシア=マルケス。代表作『百年の孤独』は世界中に社会現象を巻き起こすほどのヒットを記録した。1982年度にノーベル文学賞受賞。

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カフカに影響を受けたことを自認しており、『百年の孤独』はまさに「孤独」と「永遠」というカフカのテーマを受け継いだ小説になっている。またフォークナーにも影響を受けており、無数のエピソードを連関させた重層的な物語構造が『百年の孤独』や他の著作に見られる。

エリアス・カネッティ

(wikiより)

絶対に存在してもらわないと困る作家なんだよ。そういう作家が本当の作家だよね。ぼく自身、カネッティを知らずにすごしてしまった場合のことを考えると、ぞっとするからな。

(『死に急ぐ鯨たち』錨なき方舟の時代 より)

ブルガリア出身の作家・エリアス・カネッティ。スペイン系ユダヤ人で、執筆はドイツ語。唯一の長編小説『眩暈』を二十六歳の時に書き、当時まったく評価されずにいたが、後の『群集と権力』などの幅広い著作の成功により、初期作品の再評価が進む。1981年度にノーベル文学賞受賞。

いち早くカフカに注目し、『もう一つの審判 – カフカの「フェリーツェへの手紙」』というカフカ論を書いている。

カネッティの作品のテーマは「群集心理」、「権力」。小説や戯曲では、人間の欲望を象徴的に描き、権力下にいる人々の心理を暴こうとする作風が見られる。

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フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

(新潮社より)

そしてぼくはドストイエフスキーとの出会いに夢中になっていた。図書館の全集を順に借り出し、読みあさっていた。

(『死に急ぐ鯨たち』テヘランのドストイエフスキー より)

ロシア出身の作家・ドストエフスキー。19世紀を代表する文豪で、時代の本質をとらえる多くの長編を残した。『カラマーゾフの兄弟』はあまりにも有名。

カフカの系譜に属する作家ではないものの、社会のはみ出し者を主人公に置くという点ではカフカや安部公房と共通する。

安部公房が愛した四作家に共通する「国家に帰属しない精神」

以上の四人の作家に共通する性質を知ることで、安部公房の文学に対する姿勢が見えてくる。結論からいうと、この四作家の小説には、国家の伝統や文化への帰属を否定する精神が宿っている。

きびしい思想統制の中で、それ以外の思想が存在することさえ教えられずに育った十七歳のぼくにとって、あの懐疑主義はたまらなく新鮮なものだった。一切の帰属を拒否し、あらゆる儀式や約束事を踏みにじり、ひたすら破滅に疾走しつづける登場人物たちは、どんな愛国思想よりも魅力にあふれた魂の昂揚として映ったのだ。

(『死に急ぐ鯨たち』テヘランのドストイエフスキー より)

これは安部公房が十七歳の時に初めてドストエフスキーを読んで衝撃を受けた時の話。簡単にいえば、人は国に属している以上、必ずナショナリズムの影響を受けるため、人が書く小説にもその影響が出てしまうということ。

安部公房はそのナショナリズムを排した文学こそ、「現代文学」であり、国境を超える優れた小説であると語る。そしてカフカ、ガルシア=マルケス、エリアス・カネッティ、ドストエフスキーの四作家は、まさにその性質を持つ小説を書いたということなのである。

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