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第162回芥川賞・直木賞作品(『背高泡立草』、『熱源』)と作家情報まとめ

 

第162回芥川賞・直木賞の受賞作品が決まった。芥川賞は古川真人氏『背高泡立草』、直木賞は川越宗一氏『熱源』が受賞。

古川真人氏は4回目の候補、川越宗一氏は初の候補での受賞となり、対照的な組み合わせとなった。

本記事では、両作家の受賞を祝うとともに、それぞれの受賞作や著者の情報をまとめる。

芥川賞を知らない方はこちらを参考に→芥川賞ってどんな賞?どんな小説が受賞するの?賞の特徴を解説

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第162回芥川賞受賞作『背高泡立草』

『背高泡立草』はすばる10月号(2019年)に掲載された中編小説。

長年放置されていた母の実家の納屋の草刈りをする目的で、母を含めた親類たちと長崎の島に向かうことになった主人公が、方言や島の風景、草刈りを通して、島に流れる長い時間の中に埋もれた歴史や記憶を掘り返していく物語。

タイトルの「背高泡立草(せいたかあわだちそう)」は、キク科の多年草で、明治時代に日本に持ち込まれ、昭和期以降に西日本で大繁殖した外来種である。周囲の植物の成長を抑える化学物質を出し、深い根によって多くの養分をとりこみ背が高く成長する侵略的植物のため、日本では駆除対象となっている。

個人的にこの作品のあらすじを読んで面白いと思ったのは、「草刈り」と「島に降り積もった時間の堆積の掘り返し」を照応させている点。ただ単に昔の歴史や記憶が語られるのではなく、現在の主人公が見たり聞いたり行ったりする事物に、過去のエピソードを照射させることで、物語の説得力を増加させる仕掛けが施されている。

本書の発売日は1/24。この仕掛けがどれだけのレベルで成功しているのか、発売したら読んで確かめてみたい。

著者 古川真人氏のプロフィール

古川真人氏は現在31歳で、1988年福岡県生まれ。國學院大學文学部中退。

母方の実家が九州の島にあり、古川氏自身も子供の時から何度か訪ねていたようで、本作はまさにその体験をもとにしてできた小説といえるだろう(そもそもデビューから一貫してその体験をテーマにしているようだ)。

作家デビューは2016年に新潮新人賞を受賞した『縫わんばならん』。それが第156回芥川賞候補になり、続く2017年の『四時過ぎの船』、2019年の『ラッコの家』も芥川賞候補に(『四時過ぎの船』は三島由紀夫賞候補にも)。そしてデビューから4作目、4回目の候補となった本作『背高泡立草』で芥川賞作家となった。

ちなみにどうでもいいことだが、『ラッコの家』は文藝春秋、『背高泡立草』は集英社と、デビューした新潮社とは別の出版社から出ている。集英社としては他社からデビューした作家が、自社で芥川賞作品を書いてくれたことになるので、嬉しいかぎりではないだろうか。

長編作品はまだないようなので、これから初長編作品が出ることに期待したい(その場合は集英社から刊行されるのだろうか)。おそらく古川氏のノスタルジックな作風は長編になるほど深みが増すと思われる。

第162回直木賞受賞作『熱源』

『熱源』は文芸春秋から2019年8月に刊行された長編歴史小説。

日露の所有権問題で揺れる島・樺太(サハリン)で生まれたアイヌの少年ヤヨマネクフは、開拓使たちによって故郷を奪われ北海道で暮らすことになるが、やがて山辺安之助という名前に変え、再び樺太へ。

もう一人の主人公ブロニスワフ・ピウスツキは、旧リトアニアで生まれたポーランド人の青年で、皇帝の暗殺計画をめぐる騒動によって罪人として樺太に送られる。

揺れ動く時代の混乱のさなか、同じように外国人(片方は日本人、もう片方はロシア人)になることを強制された経験を持つ二人が樺太で出会い、厳しい極寒の地でともに生きながら、自らのアイデンティティーを模索していく物語。

このあらすじを読んで頭に浮かんだのは安部公房の『けものたちは故郷をめざす』。敗戦間近の満州から逃走した少年が故郷の日本を目指す物語で、『熱源』と同じテーマを持っている。

『けものたちは故郷をめざす』は安部公房自身の満州引き揚げ体験がもとになっているが、以下のインタビューによれば、『熱源』の作者・川越宗一氏自身には故郷喪失の体験はないそうだ。しかし、それでも「多数派の人間が普通だと思っていることへの反感」を自著のテーマにしている。この姿勢は直木賞を取る大衆作家というよりも芸術家に近いものだと思うが、それだけに芸術志向の私にとっては興味深い。

川越宗一さん「熱源」インタビュー 「文明」の理不尽さにさらされる若者たち、生きる源は|好書好日
松本清張賞を受賞し、昨年デビューした作家の川越宗一さんが、2作目の長編『熱源』(文芸春秋)を出した。明治維新の直後から第2次大戦まで、世界規模で押し寄せた「文明」の理不尽にさらされるアイヌ民族らを主役に、人間が生きる源となる熱のあり...

しかし、それにしても、樺太という寒さの厳しい土地の物語にあえて『熱源』というタイトルを持ってくるのは、コントラストがきいていて素晴らしい。同じように草刈りと歴史を作中で対応してみせた『背高泡立草』とともに芥川・直木賞を受賞したのも頷ける話。

著者 川越宗一氏のプロフィール

川越宗一氏は現在41歳で、1978年大阪府生まれ。龍谷大学文学部史学科中退。

2018年『天地に燦たり』で松本清張賞を受賞し作家デビュー。

直木賞を受賞した『熱源』はなんと2作目。普通はある程度キャリアを重ねた作家が受賞する「直木賞」を作家2年目の作品で受賞してしまうとは、恐ろしい才能といえるし、今回の受賞は川越氏が今後「大家」となる序章にすぎないのかもしれない。

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